前回は主に不当解雇について解説させていただきましたが、今回は、実際に不当解雇について争う場合に多く利用される「労働審判手続」について、お話ししたいと思います。
・労働審判手続とは?
労働審判手続は、平成18年に設けられた労働紛争解決のための制度であり、各地方裁判所において、裁判官1名と労働事件について専門的な知識経験を有する労働審判員2名(労使それぞれから1名ずつ。)によって構成される合議体によって、労働紛争処理を行う手続です。
簡単に言えば、裁判所に間に入ってもらって、労働者側と会社側との話合いによる解決を目指す手続ですね。「審判」と名前がついていますが、実体としては調停手続であるといえます。
不当解雇をはじめとする労使間の個別労働紛争の解決手段として、労働審判手続は多くの労働者の方に利用され、その申立件数も年々増え続けており、現在では年間4000件近くもの申立てがあるようです。
・労働審判手続の特色
労働審判の主な特色としては、①比較的短期間での紛争解決が見込める、②和解等による柔軟な解決が可能、③費用が安い、という点が挙げられるかと思います。
まず①ですが、労働審判法第15条第2項において、労働審判手続きは原則として3回以内の期日において審理を終結させなければならない、とされています。審判期日は、第1回から第3回まで約1か月間隔で設けられることが多いので、長くとも3~4か月程度で手続は終了します。
次に②ですが、労働審判では、労働者側の請求を認める・認めないといったような100か0かという結論ではなく、労使間双方の合意(和解)によって解決されることが多いです。ただし、期日を重ねても労使間で合意に至らない場合は、裁判官が、当時者間の権利関係や事案の実情に即した解決をするための必要な審判をするとされています。
また、③ですが、労働審判では、裁判所に申立費用を収める必要がありますが、その金額は民事訴訟提起時に必要な訴訟費用の半額程度に設定されています。このように訴訟費用よりも低額で紛争解決を図ることができるというのも労働審判手続のメリットの一つです。
・注意点
前述の通り、労働審判手続は労働者の方にとって比較的利用しやすい便利な制度と言えますが、何点か注意すべき点があります。
まず、労働審判手続は、最大でも3回で終了することは既に述べましたが、逆に言えば3回しか期日は開かれないため、原則として、当事者による主張や証拠の提出はやむを得ない場合を除き、第2回期日までにしなければならないとされています。要は、3回の期日のうち実質的には2回目までしか争えないため、最初から全力で主張立証を尽くす必要があるという事ですね。
次に、労働審判手続の期日には、原則として当事者の出席が必要とされており、期日当日は労働者と使用者が同席の上、協議を行うことが想定されています。そのため、会社側の人とは絶対に会いたくないと考える人には、労働審判手続は不向きかもしれません。
以上のような、労働審判手続のいわばデメリットについても、しっかりと理解した上で、労働審判手続を利用していただく必要があります。
・労働審判手続の実施
労働者が裁判所に対し、労働審判の申立てを行うことで、労働審判手続が実施されます。具体的には、労働者は、労働審判の当事者、申立の趣旨及び理由を記載した申立書を作成の上、これを地方裁判所(多くの場合、相手方となる会社の本店所在地を管轄する裁判所になります。)に提出し、裁判所に受理されることで、手続が進みます。
ここでは労働審判手続の第1回期日に絞って解説しますが、労働審判手続の期日は、公開の法廷ではなく、非公開の労働審判室や書記官室などで開かれ、裁判官と労働審判員、労働者、及び使用者の三者が同席の上、審理が行われます。
裁判官及び労働審判員から、当事者双方に対し、申立書や答弁書の内容の確認、質問が行われ、時には、当事者の一方が相手方に対し質問を行うこともあります。
その後は個別の事情の聴き取りに移ります。個別の聴き取りの際は、追加の質問の他、和解による解決の是非や想定している和解内容について、裁判官や労働審判員から確認されることが多いです。
双方の個別聴き取りが終了した後は、裁判官及び労働審判員が妥当と考える和解案が双方に提示されることが多いです。労使間で和解案に異議が出なければ、そのまま合意が成立し、調停調書の作成に移ります。異議があれば、引続き第2回期日に持ち越しという事になるでしょう。
もちろん、上記の手続の流れはあくまで一例であり、事案の内容や当事者の出席状況、各裁判所の運用等によって当然変わってくるものですので、その点はご留意ください。
・労働審判手続終了後
労働審判手続において合意が成立した場合は、裁判所によって調停調書が作成され当事者に交付されることで手続は終了となり、後は調停調書の内容に従い、当事者が義務の履行を粛々と進めることになります。
他方で、合意が成立せず、裁判所による審判が出た場合は、当事者は、審判が出されてから2週間以内に、裁判所に対し異議の申立てをすることができ、異議が出された場合は、裁判所による審判は効力を失うことになります。この場合、労働審判に係る労働者の請求は、労働審判手続が係属していた裁判所に訴訟提起されたものとみなされます。つまりは、労働審判手続の内容がそのまま訴訟に移行するということですね。
・まとめ
以上の通り、労働審判手続は、不当解雇をはじめとする個別労働紛争を解決するための制度として有用なものといえ、「会社に復職したい気持ちはあるけど、できれば話し合いで解決したい。」「会社とのトラブルを短期間で解決したい。」との希望をお持ちの労働者の方には積極的に活用していただくべきと思います。
労働審判手続を利用すべきかどうかでお悩みの方は、ぜひ一度当事務所までお問い合わせください。